小説「うみのあな」後編

 俺が海で溺れていたとき、セーラとカリハは海水浴場の賑わいを眺めようとして偶然近くの岩場に来ていたらしい。
「アンタが溺れていると分かった途端、止める間もなくセーラが飛び出していったからな。仕方なくアタシもついていって、セーラがアンタを連れ帰っている間にサメと少し『お話』してやったってワケだ。ま、話せば分かるやつだったよ。ちょっとでもセーラに噛みついていたりしたら、アタシがボコボコにしてやったところだけどな!」
 改めて事の顛末を聞くと、カリハは自慢するような口振りでそう語った。いかにも魚っぽい下半身のセーラと違い、カリハの腕や下半身は鱗の目立たないザラっとした質感をしている。そう、それこそ鮫のような見た目だ。ヒレの形もどことなく鮫に似ている気がする。
「ごめんねカリハ、うっかり説明するの忘れちゃってて……」
「全くだぜ、まあわざとアタシを除け者にしようとしたワケじゃないなら良いさ」
「そんなことしないよ~」
 思い返してみると確かに、セーラからは「セーラが俺をこの洞窟まで運んだ」としか聞いていない。彼女も決して嘘は言っていないが、「カリハが一緒に居た」という大事な部分が語られていなかったようだ。
「そういうわけだからオマエ、しっかりアタシに感謝しろよ!」
「ああ、ありがとうカリハ。俺は2人のお陰で助かったんだな……」
「そう、分かれば良いんだ、分かればな。……で、そんなことより、だ」
 カリハは急に黙り込むと、じっと俺のことを見つめ始めた。なんというか、品定めというか……俺という人間が値踏みされているような、そんな目つきだ。
「あの、なにか……?」
「オマエ……さっきまでセーラとヤってたんだよな?」
「えっ、いや、まあ、うん」
「……どっちが誘ったんだ?」
「え?」
「ふふっ、人間さんが私の体に発情してしまったので、私がそれに応えたんですよね?」
「ちょ、セーラ!?」
「なるほどなァ……だとしたら、アタシも負けてらんねぇよなぁ」